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不良の彼は 甘くて強引
第28章 失った免罪符
「…あいつといると俺は罪を償うどころか、救われてしまう」
「……」
「それが怖くて俺は柚子を手放した。……とでもいいたいのか?」
そう言った匠は不敵に笑った顔を翔に向ける。
だがたとえ口角が上がっていようとも、その瞳は依然として鋭さを帯びたまま…ゾクリと背筋の寒くなるような眼差しを向けていた。
「それほど俺が柔な人間に見えるか」
「……」
同様に妖しく笑ってみせた翔は、僅かな怯みもみせず微動だにしない。
「勝手な推論も程々にしておけ」
つくづく…気に食わない彼の表情だったが、もはや匠に、いちいち苛つく余裕はなかった。
これといった捨て台詞も浮かばない。
「…あいつを駅まで…、お前が見送れ」
瞬きと同時に窓に流された匠の目線。
……外は暗く、切ない。
彼は皺だらけの紙袋を鞄とともに肩に引っさげ立ち去った。
「……」
その後ろ姿を見やる翔の目が細まり、短く溜め息がこぼされた。
愛することは、こんなにも人間を臆病にする。
恨みや憎しみのほうが
彼にはよっぽどラクな感情だったろうな──