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不良の彼は 甘くて強引
第29章 天秤にかける
匠が立ち去った後のその場所で、翔は一歩も動くことなく壁に背をあずけていた。
おそらく講義室の中では泣いているであろう…
彼女の姿を想っていた。
「……」
俯いた翔の表情を、ミディアムショートの彼の髪が僅かに隠す。
彼もまた、愛しい女の前では臆病にならざるをえない…そんな男のひとりだった。
…困ったな
「…俺はいったい…どこまでを許される?」
誰に言うでもなく小さく零れた心の声。
今の彼女なら…
恐らく簡単に奪える。
失恋後のぽっかり空いた心の隙間に、入り込めばいいだけの話。
表面的な優しいセリフならいくらでも浮かんでくるのに…。
「いや、違うな……」
壁から背を離し、扉に手を掛けた。
俺が今、この部屋に入って彼女を迎えにいこうとも…嬉しくはないだろうな。
そんな事ぐらい
わかっているよ…。