この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
不良の彼は 甘くて強引
第29章 天秤にかける
ガラッ……
小さく音をたてて開けられたドア。
微かに暖房で温まった…その部屋に入った翔は、中の様子を一瞥した。
一見、誰もいない。
「……柚子」
そんな中に、奥の列に無造作に置かれた彼女の鞄があった。
「……」
その場所へ近づいてみると、席の間にペタリと腰を下ろした柚子の背中が見える。
──その背中が時折、小さく鼻をすする音に合わせてピクリと動いていた。
「…柚子ちゃん?」
「…!?」
驚いて顔を上げた彼女の背後から、その肩を抱きしめた翔。
片膝をついて、柚子の身体を包み込んだ。
「──…!?…先輩…っ?」
匠とはまた違う低音の…柔らかな声色。
自分を包んだその腕に戸惑いながら、柚子は彼の顔を見ることもできずに言葉を失っていた。
「今回は、事情を話す必要はない……」
「……!」
「大体の事はわかった」
彼女を抱きしめる力を少し抜いて囁く。
「……」
なんで、先輩が…?ここにいるんだろう。
「……っ…」
後ろを振り返った柚子の、目の前にある可憐な唇
涙の筋が跡になったその頬と、自分を見上げる無垢な瞳
抱きついた翔の方が、その距離感にたじろいてしまう。
“…不味いな ”
──この状況
このまま彼女の唇を塞いで押し倒してしまいそうだ。