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不良の彼は 甘くて強引
第29章 天秤にかける
…ポタッ
仕舞いきれない想いの雫が彼女の頬を伝い
正座した膝の上で握りしめられた手の甲に、音をたてて零れ落ちる。
潤んだ視界に辛うじて映る菩薩の表情がゆらゆらと揺らぎ始め、まるで…
まるで彼女を想って泣いているようにも見えた──
『病名は知らないが…《すぐ泣く》病気だろう?』
「──…」
いつぞやの
匠の…わたしを小馬鹿にしたその言葉が頭の中で囁かれた。
『…治してやろうか?』
「……」
『こうすれば…治る──』
「…っ」
とうとう前の見えぬほどの涙を抱え
柚子は堪えきれずに俯く。
「……ッ、──…治して よ…‥っ」
そして小さく声が漏れた。