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レモンティーな朝焼け―母娘調教―
第30章 後悔(第五部)
「いってらっしゃい、気をつけてね・・・」

母の肩越しに圭子が心配そうに声をかけた。

「大丈夫よ・・・ 」

振り向いた香奈子はフッと笑みをこぼした。

「お通夜でかなり遅くなると思うの、だから先に寝てなさいね」

娘の艶やかな髪を撫でている。

「はい、ママ・・・」

素直に返事をした圭子は、母が玄関につけたタクシーに乗り込むまで見送った。

黒いツーピースにグレーのハンドバックを持つシックな喪服姿に、ため息がこぼれた。

(やっぱり、ママは素敵だわ・・・)

改めて母の魅力に憧れるのだった。

特に今夜は、いつに無く艶めいて見えた。

切れ長の瞳は潤んだように濡れて、小さな光を散乱させている。

髪をアップにしているのでうなじが露になり、地味な色調が返って肌の白さを浮き立たせいた。

「ママ・・・」

だが、言い知れぬ不安を感じていた圭子は車が走り去った後も、暫くたたずんだまま動かなかった。

母が稽古を受けている茶道の先生の身内に急な不幸があったという事で、通夜に出かけただけなのに、もしかすると永遠に会えないような予感がしていた。

夕食の時も思いつめた表情を何度か見て、気になっていたのだ。

圭子は、母の事が好きで仕方がなかった。

どうしてこんなにと思うほど憧れ、その魅力に一歩でも近づきたいと願う。

それは、母から受ける愛情に比例したものかもしれない。

十七歳という若さで圭子を身ごもった母は、青春の全てを犠牲にしてまでも生もうと決心したのだ。

赤ん坊の頃から片時も離れること無く、優しい愛情を注いでくれた香奈子に母親以上のものを感じる圭子は、もしもその身に何かあったら生きてはいけないとさえ思う。
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