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第2章 元彼と雨

自分のデスクに戻って一度座ると、もう立ち上がれなかった。

机の上には今すぐ帰れるように準備したカバン。
パソコンも落としている。もう家に帰るだけだ。
でも足に力が入らない。

オフィスに残っていた数人は私がデスクに戻ると同時に帰ってしまい、部屋には誰もいない。
頭の中ではさっきの二人の会話が何度も繰り返されている。

真面目なだけでつまんない。
そう、私はつまんない女なのだ。

嫌われたくない、傷つきたくない。
その為なら欲しいものも言いたいことも諦められるつまんない女だ。

亮太ともっと会いたかった。
家ばかりじゃなくて色んな所に出掛けたかった。
喧嘩もしたかった。
気分が乗らないときにセックスはしたくなかった。

でも言えなかった。
亮太に嫌われたくなかったから。

ああ、なんて私は馬鹿なんだろう。

二年もかけて自分が好きな人に言いたいことも言えない臆病な人間だと思い知っただけだ。

三日前には一滴も出なかった涙が溢れてくる。
誰もいなくてよかった。
外が雨でよかった。
情けなくて惨めな自分を、誰にも見られなくて聞かれなくてよかった。