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嵐の夜に痕をつけられて
第8章 エピローグ
会社の近くまで来るといつもの出勤する朝の風景だった。

見慣れているはずなのに全てが明るく鮮やかになったように見える。昨日とは何も変わっていないのに。

いや、正確には今日は相沢さんが隣にいる。

会社近くの駐車場に車を停めたところまではよかった。
そこで私は時間差でバラバラに出勤するつもりでいた。

当然相沢さんもそう考えているだろうと思ったのに断固として拒否されたのだ。


「わざわざ関係を隠す意味がわからない。
 社内恋愛は禁止されていない」

「いや、でも、やっぱりその……」

「俺と付き合ってるって知られるのそんなに嫌?」


そんなすがるような、子犬のような目で見ないでほしい。


「相沢さんこそ社内に彼女がいるって知られるの煩わしくないんですか?」

「慶吾」

「け、慶吾さんこそ……」

「関係ないよ。やるべき仕事をちゃんとやってれば
 誰も何も言わない」


まぁ確かにその通りだ。
幸い私たちは部署が違うし直接仕事で関わることはほぼない。

そんな訳で堂々と二人で出勤することにした。

他の社員(特に女性社員)の視線を感じなかったわけではないが、直接何かを聞いてくる人は当然いない。
いい大人が誰と付き合おうと自分には関係ない、それが普通の感覚だ。

自分を見てくれる人、気にかけてくれる人がいるというのはこんなにも気持ちを前に向かせてくれるものなのかと思う。

ただひたすらに憧れていただけの亮太のときとは違う。
私の頑張りを認めてもらえる。
つらかったら頼っていいという安心感。


「それじゃ、帰るときまた連絡して」

「はい、慶吾さんも」


にっこり笑って私はエレベーターを降りる。
今日も仕事を頑張ろう。
オフィスには初夏を思わせる明るい日差しが差し込んでいた。









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