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第10章 すれ違い

「そんなっ……荒井さんが……信じられません……」

一方的な奈緒の別れ話を聞かせると弥生は痛々しい表情を浮かべて呟いた。

「あれから奈緒は……帰ってきましたか？」

無駄だと思いつつそう尋ねると弥生は小さく首を横に振った。
二人はしばらく黙って向かい合っていたが、しばらくすると智輝がぽつりぽつりと奈緒との想い出話を始めた。
もちろん性的な話ではなく、楽しかった二人の想い出の話を。
弥生は静かに、時に微笑みながら頷きながらそれを聞いてくれた。
もちろんその間も智輝は奈緒が帰ってくる気配を願っていたが、その願いは叶うことはなかった。

「そのとき奈緒がさ……」

動物園での失敗談を笑いながら語っていた智輝の頬に不意に涙が流れた。