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人生最後のセックス
第1章 人生最後の
 無理して働かなくてもいいよ。彼の優しい言葉に甘えてパートの短時間勤務で働いていた私に、この部屋で一人暮らしを続ける程の収入はなく、仕事を増やして頑張る気力もなかった。
 夫の突然死に腑抜けてしまった私を両親が心配して、すぐにでも帰って来いといってくれたのに、四十九日まではと無理いって私はまだこの部屋で暮らしている。
 続けてきたパートは辞めた。実家から通うには遠かった。家にこもる私を母が三日に一度くらい見に来る。その時ばかりはなんとか笑顔を作るが、それ以外の時間は彼の写真を見返しては当時を思い出して、微笑ましく笑ったり、泣いたりした。
 さびしい。彼が恋しい。降り積もる思いに、叶わぬ願いに押しつぶされそうな日々を送っていた。
 ピンポーン。
 部屋にチャイムの音が鳴り響く。
 窓の外は明るさが残っているものの日は沈み、こんな時間に訪ねてくる友人も荷物が届く予定もなかったはずだが。母が忘れ物でも取りに戻ったのだろうか?
 無理して顔の筋肉を動かして笑顔の準備を整えると、外を確認せずにドアを開けた。
 そこに立っていたのは紛れもなく彼だった。
「はるちゃん……?」
 時間が止まった。幻覚を見る程追い詰められていたのかと思った。
「菜乃葉、ただいま」
 しかし、聞き慣れた優しい声と柔らかな笑顔に、なんだっていいと思ってしまった。夢でも幻でも、もう一度彼と一緒に過ごせるなら。ドアを大きく開けて彼を迎え入れる。彼が家の中に入る。ドアを閉めて振り返った。
 玄関に彼が立っている。ずっと恋しく思っていた彼が私をぎゅっと抱きしめる。
 恋しかった体温に包まれて、私の目からは涙が溢れた。
「ずっと会いたかったよ……」
 彼が私の首元に顔を擦りつけながらそういった。
「私も、私もずっと会いたかった……」
 続けたい言葉はたくさんあった。伝えたい気持ちも。寂しかった、なんで突然私を一人にしたの、愛してる。だけど思いが溢れ過ぎてどれも出てこない。出てくるのは涙と嗚咽だけだった。彼の胸で、世界一安心なその場所で、声を出して泣きじゃくっていた。
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