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契約的束縛・過ぎ来し方(すぎこしかた)のメモリー
第3章 メモリー仁科

「また来いよ、細いんだからしっかり食いな」
「えぇ……」
受け取った料理を抱え私はまた歩き出す、これ以上は買えないが見て楽しむのは悪くない。それにこの姿だと周りから浮くこともなく気楽に独り歩きが出来るというもの……かつてドイツ国内を歩いていた時のように。
九龍から新界に向かえば景色は一変、旧市街の佇みを経て現代建築の群れへと変わる、狭い土地に多数の高層建築これが新界香港の中心。私が住んでいるのも新界のマンションでこれはルークが用意したもの、そろそろ慣れた道を辿りマンションまでは戻って来た。
帰っても私独り……夕食をカウンターテーブルに置きおもむろにルーシュイを一口。
「味はいいですが重い、これならルーシュイとスープだけで良かったですね」
大食いでも小食でもない私の食事量ではこれは多かったかも、そんな他愛もないことを考えながら簡単にシャワーと着替え済ませ、気が向いたので夕食を窓辺にあるソファーセットへ移しようやく一息。
「灯りが綺麗ですね、本当に香港は景色がいい」
ドイツでも高い場所に住んではいたが見えるのは僅かな灯りと暗闇ばかり、そう思えば香港の煌々と電気の灯りが広がる夜景は栄えある現代そのもの。少々遅い夕食を食べながら街の景観を眺めるのが習慣になりつつある。
「百万ドルの夜景……これは日本の言葉だったはず」
香港に来る前から日本に付いて調べてはいた、多分一番理解しにくいのが日本という国。『日本に行く』これが私の目的の一つであるのだから事前にいくら調べても損はない……日本人を装うならば尚更。
随分と前にとある日本人から日本というのを教わったが全てではない、そして今時事情も皆無に等しくどれだけ頭に叩き込んでも必ず漏れは存在すると仮定はしています。
話す言葉に違和感はない、日本の文字もなんとか大丈夫、ですがそれからは? 生活風習独特の文化、日本人に取っては当たり前のことも私から見れば大いなる違和感があるのは当たり前、ハーフとはいえ私の母国はドイツ……つまり西洋圏、東洋に当たる日本は未知の世界に近い。
そんな事を思っていたらスマホの振動、パネルを見れば相手はルーク、定期連絡以外など珍しい。

