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契約的束縛・過ぎ来し方(すぎこしかた)のメモリー
第3章 メモリー仁科

(それはいいんですがね、問題は調教師のほうですか)
中途半端な調教師としての私、どこをどう変えればいいのかと悩んでも未だ答えは出ず、だが香港以来調教師はしていない。問題は先ほどの東条……これではまた蒸し返しですか。
「なぜ……。何度繰り返すんですかねこの言葉を」
悩まないとは言っていない逆に悩んで来たことは沢山……今までもそして多分これからも。この疑問に明確な答えなんてない……それも薄々理解はしている。……私が私である限りずっと。
「さっきからずっとそこに居るな、いい大人が暇なのか?」
「…………?」
夕焼けを見ながらどうしようもない考えに耽っていたら、唐突にそれは現れ私に話掛けて来た。声の方に振り向けば男性が一人私の近くに立っている、見たことはない初めて会う顔、なのに……どうしてだろうか不思議と嫌な感じは受けない。
「見ていたんですか?」
「なに五分ほどだ。それで動かないんだからもっと前から居たんだろ」
「えぇ、そうですね」
「こんな場所で……悩みか?」
「まあ……」
私の横で呑気にタバコなぞ吸い出したこの男性、よく見れば黒いスーツをかなり気崩してはいるが私の見た目よりは年上な雰囲気。私と同じくらいの身長に黒い髪、体格からしてそこそこには鍛えているよう……会社員よりも夜の商売、そんなのが似合う感じを受ける。
「どうだ俺に話してみないか」
「あなたにですか?」
「他人が聞いたほうが解決出来る時もある。それに一回きりだ後腐れもないだろ」
「後腐れ……そうですね」」
少し迷う話していいものかと……。だが内容的には誰に聞かれても差しさわりはない話、だからだろうか話してみようと思ったのは。

