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契約的束縛・過ぎ来し方(すぎこしかた)のメモリー
第3章 メモリー仁科
私は長き時を過ごして来た。正確には分からないが少なくとも普通の人間からみれば数倍は生きているとは思う。それが良いのか悪いのかは別として。
Cross sels《クロス シールズ》という世界規模の裏組織裏社会その頂点である盟主が私の立場、だが本音を言えばくそったれとは思ってはいる。だからこそ私は本拠地であるドイツから飛び出し今こうして自由に旅をしている……Cross selsからは抜け出せはしないが。
「香港はいい場所ですね、私みたいなものでも居心地がよいです」
ここは香港島にある高層ビルの上階、その窓辺から下界を見下ろしているわけなのだが……。
「やはりお戻りにはなられませんか盟主」
「一切ありませんねイェンフゥイ」
彼はリュー・イェンフゥイ、Cross sels本部香港支部の支部長であり私の正体を知る数少ない人物で、気楽に話せる相手ともいいますか。向こうはそうはいきませんけど。
「盟主ではなくコンラート・ゼクスですよ、仁科悠人でもいいですがね」
「あの日本人の姿ですか?」
「えぇ、あれもかなり馴染みましたので」
盟主としてならばゴールド・クルスと呼ばれているが、こうして外に出ている時はコンラート・ゼクスと偽名を名乗り、更には髪と目の色を変えて仁科悠人という日本人の名を名乗ることもある。
私はドイツと日本のハーフであり、本来の金髪青瞳の時は完全にヨーロピアンに見え、茶髪黒瞳の時は多少誤魔化しは入るが日本人に見える。それを上手く利用したのが仁科悠人で日本にも手配済み。この名前の持ち主はすでに日本には居ない、それこそCross sels経由で人身売買に引っ掛かり海外へと売り捌かれて行った。私は売買リストから仁科悠人を選んだだけ、理由は日本人姿の私に似ていたからそれだけの話。
「日本に行ってみたいんです、一度も行けませんでしたから」
「香港でも宜しいのでは盟……いえコンラート?」
「私にも思いというものがあります、その思いの先が日本。ですが繋がりも伝手も今のところはありませんが」