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第5章 居候、そして優子さんとのお別れ〜まりあ

本当に突然、
事務所に居候させて貰うことになった。

礼儀として、母屋には行かないと、
自分の中でルールを決めて、
1週間から10日ほどでマンションの契約が終わったら速やかにそちらに入ろうと思った。

だから、荷物はあまり出したりしないようにしていた。
ユニットバスで、お湯に浸かれるのは有り難いけど、
狭いから基本的にシャワーだけにしようと思った。


翌日、居候の報告に、
一人でもう一度、ホスピスを訪問すると、
優子さんはこれまでにないほど柔らかい雰囲気で、
「ありがとうね？」と言われてしまった。


「いや、有難いのはこちらなんですけど？」と言うと、
優子さんは私の手を握って、

「あのね、
本当にまりあさんが嫌でないなら、
まさとさんと再婚して欲しいの。
あの人、本当に甘えん坊で寂しがり屋なのに、
私、最初からまさとさんの両親から疎まれていたこととかを気にして、
物凄くイライラして八つ当たりしてたの。
病気になってからは物凄く辛くて、
全然優しくしてあげられなかったの。
ニコニコしてれば機嫌良く過ごせる単純なヒトなのに、
そんなことも出来なくてね。
だから、まりあさんみたいな明るくて優しいヒトと、
一緒に過ごして欲しい。
あの人にも、
ちゃんとまりあさんに優しくするように言うから。
ダメかしら？」


「えっと…阿部さん、私のことなんて、
何とも思ってないですよ？
だから、仕事でご一緒には可能かなと思いますけど…」


「ううん。
あの人、結構堅物だからね。
まだ、指輪もしてるでしょ？
私が存命中は、私に義理立てしてると思うけど、
絶対、まりあさんのこと、好きよ？
大切にしたいと思ってるから、
一つ一つ、きちんと進めたいんだと思う。
私との時は、それしなくて、
失敗したから…」


「私、子供を産めない身体なんです。
そのことで離婚されちゃったし。
欠陥品って言われました。
だから、もう結婚は良いかなって思ってます。
ちゃんと愛されたいなっていう気持ちはあります。
結婚してた時も、離婚した後も、
どうして結婚したんだろうって思ってました。
望まれたからと思ってたけど、
向こうは健康で頭が良い子供が欲しかっただけで私を選んだだけで、
それなのに全然妊娠しなかったから…」
話をしながら涙が出てしまっていた。