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遠き隣人
第3章 若妻、江梨
《もう一回曲が全て流れ終わるまで待って見よう。》
それから時は過ぎ、私は焦り出した。
もう時計は10時半を過ぎようとしていた。
《何のつもりかしら?》
私は、いつの間にかあの人の家に向かい歩いていた。
あの人の部屋を見ると部屋にいる気配がまるで感じられない。

《…おかしい!おかしい過ぎる。》

私は急いで元にいた公園に戻った。
でも、やはりあの人はいなかった。途方に暮れた私は、公園内に入りブランコに腰掛け夜空を眺める。

《私ッたら何やってんだろう…。》
公園内にあの人がいないか周りを歩いてみたが、いない。人の通りも少なくたまに公園の向こうの道で誰かタクシーを拾ったりしているくらい…。

時は既に12:45。
私は我慢に耐え兼ね、あの人の家に電話してみた。
夜中の1時ですよ!電話に出たのは、あの人の母親。
眠そうな声で、母親は言いました。

あの人は大分前に自宅を出たという。
その時…私は『しまった!』と気付いた。

あの人の自宅の近くに第一公園と第二公園がある事を…。急いでそこに向かったが、時既に遅く。
もう一つの公園には誰も存在しない。

もう時間は2時前。あれから7時間近く経とうとしている。私が諦めて帰ろうとした時、公園の入口から苦笑いしたあの人がやって来た。

『ゴメンなさい…ゴメンなさい!…ゴメン。私、勘違いしてた』
泣きそうな顔で近寄る。胸が張り裂けそうになった。
『何処行ってんのよ!』と思いながらも口には出さなかった。
聞いてみてびっくり。あの人も同じくらい待っていた。違う公園で。すれ違いもあり、あの人は機転をきかして私のアパートに向かったという。

公園の向こうでタクシーに乗ったのがあの人だった。

私達は初めてのデートでお互いを7時間待っていた。
あの人も、もう一つの公園の存在に気付き急いで来たらしい。

そんな初デートを乗り越え、私達は結婚した。そんな事も、既に遥か昔のように感じられる。
いつしか私は寂しさのあまり泣きながら寝入ってしまっていた。

翌日、教頭に呼ばれ私は早めに登校した。
『どうかな?この学校は?クラスの子たちとは上手くやってるかね?』
『はい!みんな良い子ばかりで教えやすいし、やりやすいです。』
『君の事は前の男子高の理事長から聞かされているよ。若いのに、苦労して短大を卒業し、クラスも上手くまとめて評判が高いってね』



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