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真夏の夜の夢
第4章 第三夜
正太郎は惚れていた女が死んで
寂しい日々を送っていると正直に話した。
「まあ、奇遇ですわね、
うちの奥さまも旦那様を亡くされて
寂しがっております」
その奥方というのが大層な美人だと聞いたので
「どうだろう、寂しいもの同士なのだから
慰めあおうではありませんか」と
正太郎は提案した。
「それはようございます。
奥さまもお喜びになることでしょう」
二人は夕闇迫る道を急いだ。
家に着くと奥の間に通された。
「はるばるとお越しくださいまして
ありがとうございます」
顔を覗かせた未亡人の顔を見て
正太郎は「うわっ!」と声をあげた。
なんと奥から出てきた未亡人は
痩せ細った磯良だったからだ。
慌ててその家を飛び出した正太郎は
菩提寺の住職に助けを求めた。
「これはいかん!」
正太郎の顔を見るなり住職は
「そなたに悪霊が憑いておる!」と言い切った。
そして
「よいか、この御札を
出入りできるあらゆる場所に張り、
三日三晩お経を唱えなさい」と言って
御札を授けてくれた。
住職が言うように戸や窓に御札を張り付け、
一心不乱にお経を唱えた。
その夜…お経を唱えて居ると、
戸をこんこんと叩く音がした。
「あなた、そこにいるんでしょ?
開けてくださいな…
何故か御札が邪魔をしてそこにいけないのです」
地の底から聞こえるような、
なんとも、恐ろしい恨み声であった。