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真夏の夜の夢
第9章 第八夜
潮の流れが悪いのか
いくら竿を振りだしても
ピクリとも当たりが来ない。
たまに竿がしなって『来た!』と思って
リールを巻き上げると
海蘊(もずく)のような海草が絡み付いているだけだった。
なんだよこれ…
釣り針に纏わりついている海草を見て
健介は気味が悪くなった。
ライトの灯りで絡み付く海草を取ろうとして
それがまるで髪の毛だと気づいた。
『ポイントを変えてみるか…』
それに先ほどから
浜辺の向こうの道路から
ドゥルル…プスン
ギュルル…プスンと
エンジンが不調なのか
なかなかエンジンが掛からずに
調子っぱずれの音が鳴りやまない。
『くそっ!下手くそめ!』
釣れなくてイライラしているところに
小気味良いエンジン音をさせてくれないので
気が散って仕方ない。
『何してんだよ!』
笹岡健介は竿を置いて
不調そうな車に向かって歩き始めた。
「どうしたんですか?
エンジン、掛からないの?」
運転席の窓をコンコンと叩いて声をかけてみた。
運転席の女は髪の長い女だった。
「エンジンが…かからないの…」
か細い声で女は返事を返してきた。
「どれ、僕がエンジンを掛けてあげましょう」
さあ、運転席から降りて。
そう言って車のドアを開けて
運転席の女の顔を見て健介は驚いた。
それは数年前に孕ませた
ゆきずりのセックスをした女だったからだ。