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桜が咲く頃逢えたら
第8章 逢いたい
両親に無理矢理、実家へと連れ戻された日から、
私の時計は止まってしまった。


何をしても、何も感じない。
話もしたくない。
何もしたくない。

そんな毎日。


病院で江川さんがスマホで撮ってくれた、
りんくんを挟んで笑う亮平さんと私の写真。

「ママになってくれるの?」と言って、
「なれるのかな?」と言うと、
とても嬉しいそうに、
「なれるよ?」と言ってりんくんが笑ってくれた時の写真だった。

わざわざ印刷して、
お通夜の時に江川さんがそっと渡してくれたのを、
手帳に大切に挟んでいた。

飾ることも出来ないので、
毎日、そっとお菓子や飲み物を置いて、
手帳を開いて話し掛けたりしていた。


紘子さんが家まで来てくれた時も、
ママは2人きりにはしてくれなくて、
亮平さんの様子を見て来て欲しいとお願いすることも出来なかった。


「実行委員会でもする?」と言ってくれたけど、
外に出ることは許して貰えなくて、
「家に呼んでお話すれば良い」とママに言われてしまった。


パパは腫れ物を触るように私を少し遠くから見ているだけだった。


翌週、安西くんの車で紘子さんと高橋くんが家まで来てくれた。

複数だからということで、
ママはお茶を出すと奥に入ってしまった。


「なんか、大丈夫?
痩せちゃったよね?
電話しても折り返しもないし、
LINEも既読にならなくて、
心配してたよ?」と、
安西くんがゆっくりした口調で話す。


「ロミオとジュリエットみたいに、
引き裂かれちゃったのよ。
携帯も没収されてて、
私も話、殆ど出来なかったんだよね」と、
紘子さんが声を顰めて言った。


「えっ?
そうなの?
大丈夫?」と呑気な声で高橋くんが言うけど、
勿論、大丈夫な訳はない。


「紘子さん、お願いがあるの。
江川さんに連絡して、
亮平さんの様子を見て来て欲しいの。
心配で…」と口にしただけで、
涙が止まらない。


「4月に大学が始まったら、
会いに行けるかもしれないけど、
それまでは家からも出れないし、
携帯も没収されたままで、
連絡も出来ないの。
でも四十九日には必ず伺いますって伝えて欲しいの」


「四十九日って?」と、安西くんが訊くけど、
私は話をするのも辛くて言葉が続けられなかった。
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