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熱帯夜に溺れる
第5章 沈殿する夏、静止する冬

すでにUN-SWAYEDの出番は終わり、ステージでは次の歌手が歌い出していた。
「SEIYAは今日も色気ダダ漏れで、セクシーボイスの歌は超絶上手くて、黒でまとめたスーツ姿が最高にかっこよかったです」
「ふーん、そう」
「妬いてるでしょ?」
「別に。芸能人に妬いても仕方ない」
小声でそう呟いてそっぽを向く純の頬を莉子は笑って突っついた。芸能人に妬いても……と口では言いつつ、彼は明らかに拗ねている。
前は莉子の前でも必死で〈大人〉を演じていた彼が、最近はこうして時たま、子供っぽい顔も見せてくれるようになった。
本人がかっこ悪いと思う姿も、莉子には愛おしいから。どんどん見せて欲しい。
けれどハマればハマるほど、この恋から抜け出せなくなる。恋の強制終了のカウントダウンは怖くてまだ刻めない。
ソファーを降りた彼女は部屋の片隅で待機する旅行用のボストンバッグを持ち上げた。まだソファーにいる純は悠長にスパークリングワインが入るグラスを傾けている。
「風呂?」
「うん。私が出てくるまで、絶対、ぜーったいにここの扉、開けちゃダメだからね?」
「わかったわかった」
苦笑いする純に背を向けて彼女はキッチンと洋間を隔てる引き戸を閉めた。何度も裸を見せた関係で、風呂に入るために今さらここの扉を閉める莉子の挙動を純も少しは疑問に思うだろう。
莉子の目的は入浴ではない。ただ念の為、彼女は浴室に移動した。水気のない浴室のタイルにボストンバッグを下ろし、中からあるものを取り出す。
「……やっぱりちょっと丈が短いかなぁ」
小声で呟く莉子が手にする物は赤色のワンピースだ。手早く脱いだ服をボストンバッグに詰め、今度はこのワンピースを身に纏う。
着替えの間、彼女は先ほど聴いた〈full moon〉の歌詞を声を出さずに口ずさんだ。
KAITOは今夜のメドレーでは2番を歌唱していた。2番の歌詞に登場する赤い糸の先、そのワードが莉子の意識を絡め取る。
(私の赤い糸の先は純さんだといいなって思っているんだけど、純さんは違うのかな……)
足音を立てないように静かに浴室を出て、側の洗面台の鏡に自身の姿を映す。仕上がりは上々、なかなか似合っていると思う。
「SEIYAは今日も色気ダダ漏れで、セクシーボイスの歌は超絶上手くて、黒でまとめたスーツ姿が最高にかっこよかったです」
「ふーん、そう」
「妬いてるでしょ?」
「別に。芸能人に妬いても仕方ない」
小声でそう呟いてそっぽを向く純の頬を莉子は笑って突っついた。芸能人に妬いても……と口では言いつつ、彼は明らかに拗ねている。
前は莉子の前でも必死で〈大人〉を演じていた彼が、最近はこうして時たま、子供っぽい顔も見せてくれるようになった。
本人がかっこ悪いと思う姿も、莉子には愛おしいから。どんどん見せて欲しい。
けれどハマればハマるほど、この恋から抜け出せなくなる。恋の強制終了のカウントダウンは怖くてまだ刻めない。
ソファーを降りた彼女は部屋の片隅で待機する旅行用のボストンバッグを持ち上げた。まだソファーにいる純は悠長にスパークリングワインが入るグラスを傾けている。
「風呂?」
「うん。私が出てくるまで、絶対、ぜーったいにここの扉、開けちゃダメだからね?」
「わかったわかった」
苦笑いする純に背を向けて彼女はキッチンと洋間を隔てる引き戸を閉めた。何度も裸を見せた関係で、風呂に入るために今さらここの扉を閉める莉子の挙動を純も少しは疑問に思うだろう。
莉子の目的は入浴ではない。ただ念の為、彼女は浴室に移動した。水気のない浴室のタイルにボストンバッグを下ろし、中からあるものを取り出す。
「……やっぱりちょっと丈が短いかなぁ」
小声で呟く莉子が手にする物は赤色のワンピースだ。手早く脱いだ服をボストンバッグに詰め、今度はこのワンピースを身に纏う。
着替えの間、彼女は先ほど聴いた〈full moon〉の歌詞を声を出さずに口ずさんだ。
KAITOは今夜のメドレーでは2番を歌唱していた。2番の歌詞に登場する赤い糸の先、そのワードが莉子の意識を絡め取る。
(私の赤い糸の先は純さんだといいなって思っているんだけど、純さんは違うのかな……)
足音を立てないように静かに浴室を出て、側の洗面台の鏡に自身の姿を映す。仕上がりは上々、なかなか似合っていると思う。

