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熱帯夜に溺れる
第6章 泳げない魚たち
 ふたりはレストランを後にした。このドライブの果てが莉子と純の恋の終着駅。

「俺は莉子に救われた。莉子と出会えてよかったと思ってる」

 車窓を流れていく街の灯り。BGMも流れない車内で純の言葉が突き刺さる。
 無言の莉子の横で彼は運転を続けた。車の目指す方向は莉子の自宅に向かっていて、見覚えのある風景が自宅が近いことを莉子に教える。

 目と鼻の先に莉子のマンションが見える脇道で車が停車した。
 莉子はすぐさまシートベルトを外して運転席にいる彼に抱き着いた。温かな胸元には純の香水の香りが染みていて、深い森林を連想させる匂いを思い切り吸い込む。
 大好きなこの香りも忘れないように。

「純さん」
「ん?」
「1日早いけどお誕生日おめでとう。生まれてきてくれて、ありがとう」
「……ありがとう。今日を莉子と過ごせて良かったよ」

 ポンポンと頭を撫でられていると、これが最後の別れだとは思えなくて、次に会う約束をしてしまいそうになる。

 明日は純の36歳の誕生日だ。当然、誕生日も仕事だよと笑った彼は、明日も実家に帰るつもりはないらしい。
 誕生日プレゼントは何もあげられない。莉子を思い出すものなど、あげられるわけがない。

 せめて……と、彼の首筋に吸い付いた。キスマークを上手くつけられない莉子は、吸い付いたそこを舐めるだけ。
 それに社会人の純の首にキスマークはご法度だ。つけられない独占欲の証の代わりに彼女は自分の匂いを彼の身体に染み込ませた。

 小さく息を吐いた純が莉子を抱き締める力を強くする。離れたくないと泣き叫んだふたつの心は、割れた硝子みたいに粉々だ。

 名残惜しく触れていた身体を離して助手席の扉を開けた。夜になり一段と冷えた空気に身震いしても純の温かい胸元には帰れない。
 最後に見た純の微笑みが寂しげに莉子を見送っていた。

 互いにどうしても「さようなら」は言えなくて、莉子も微笑みしか返せなかった。
 一度も振り返らずに自宅まで歩き続けた。
 不思議と涙は出なかった。泣いてしまえばすべてが崩れて元に戻ってしまう。
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