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熱帯夜に溺れる
第2章 夏の夢
 土曜の作戦失敗の翌週、6月第4週の火曜は学校後の18時からバイトだった。

 井上が休みでホッと胸を撫で下ろした莉子だがムードメーカーの彼のいない中央レジは静かで、気の合わない荒木とふたりで黙々と作業を行っていた。

 荒木の様子がいつにもましてピリピリしている。18時からシフトメンバーに加わった莉子にはそれ以前の職場の出来事など知る由もないけれど、今日はずっとこんな雰囲気だったのだろうか?

 迫りくる期末試験やネイリスト検定のこと、就活や竹倉純のことを考えて仕事中にぼんやりしていた莉子も作業の途中でミスを連発してしまい、荒木にこっぴどく叱られた。

 荒木の口調はキツくても、悪いのはミスをしてはいけない作業でミスをした莉子であり、腹は立たなかった。荒木の個人的感情が多少紛れていた可能性を考慮しても、彼女に怒られたことに対する不満はない。

 あんなに負の感情ばかりを溜め込んで人生楽しいのかな……とは余計なお世話ながら思ってしまうけれど。

 閉店前に荒木が店内の見回りに行ってレジを離れた。レジ締め作業をする莉子の隣に竹倉純が並び、作業を手伝ってくれる。

「大丈夫?」
「え?」
「さっき荒木さんが佐々木さんにキツイ言い方して怒っていたからさ……」

 純は見回り中の荒木が近くにいないことを確認して小声で囁いた。長身の彼は少し腰を落としていて、顔の近くで囁かれた純の声が耳に熱く残る。
 久々に話しかけられた莉子の心は荒木とのいざこざなんて、一気にどこかへ吹き飛んでいった。

「平気です。ミスをした私が悪いので……」

 今日は少し程度が異常ではあっても荒木が厳しいのも口調がキツイのもいつものこと。
 次は同じミスをしなければいい。強がりではなく本心からそう言ったのだが、純は浮かない表情で眉を下げていた。

「あの人もどうして佐々木さんにはあんなに厳しいんだろうね。他の人達とは仲良くやってるところを見かけるんだよ」
「うーん……、残念ですけど、私は好かれてはいないみたいですね。初日からそうなので、仕方ないことなのかなって。性格の相性がありますし」

 荒木は莉子と仲の良い秋元結梨や他の女性店員、男性店員には態度が穏和だ。荒木と他の店員があだ名で呼び合って笑って会話をしている場面を莉子も見かける。
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