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熱帯夜に溺れる
第3章 熱帯夜に溺れる
 ライブの翌週、8月第2日曜日はドライブがてら隣の市まで出掛けた。行き先は水族館だ。
 トンネル型の巨大な水槽には海底に宝石を散りばめたように様々な種類の魚が泳ぎ、ペンギンにアザラシにホッキョクグマ、イルカショーも観覧できた。

 水族館を満喫した莉子と純が地元に辿り着く頃には夏の夕闇がすぐそばまで来ていた。
 日曜日の県道は少々渋滞気味で、さきほどから一向に車が進まない。

「けっこう混んでるね。莉子ちゃんの家の方向だと次の交差点で右折した方が早いかな」
「……あの、純さんの家、どこにあるの?」
「俺の家?」
「今から行っちゃダメ?」

 水族館の土産物店で純に買ってもらったアザラシのぬいぐるみを莉子は胸元に抱えた。純は今日も莉子を家まで送り届けてデートを終わらせようとしていたに違いない。

 手は繋いだ。抱き締めてもくれる。
 けれどふたりはまだキスをしていない。それ以上の行為もしていない、プラトニックなままだ。
 今日は、今日こそは。そう想いを込めた莉子の真意に、純も気付いていた。

 純は無言でハンドルを握る。彼が答えを出すのに数秒を要した。

「いいけど……俺の家なにもないよ?』
「逆に何があるのか気になる。見られて困るものとか……」
「ははっ。どうかなー? なかったと思うけど」

 車内に漂う微妙な空気をふたりしてわざと誤魔化して、莉子と純は冗談を言い合った。

 車が渋滞を続ける大通りから外れ、脇道を何度か通って進んでいく。どんどん近付く駅前のビル群の景色に莉子は首を傾げた。

「駅前に向かってる?」
「俺の家、駅裏にあるんだ。職場まで自転車なら10分もかからない。歩きだと20分程度かな」

 やがて夜の帳の下りた住宅街の一角で車が停車する。こじんまりした四角いアパートの外階段を純が先に上がり、莉子も彼の後ろをついて階段を上がった。
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