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熱帯夜に溺れる
第3章 熱帯夜に溺れる
 煙草を消した純がベッドに潜り込んできた。彼は莉子を抱き寄せ額に口付けを落とす。
 ほの暗い闇の中で互いの顔を捉えて見つめ合った。

「おかえり」
「ん? おかえりって?
「やっとひとりの世界から帰って来たでしょ? ずっと煙草吸ってボーッとしてたもん。寂しかった」
「ごめんね。ほったらかしにしちゃったね」

 謝罪のキスは煙草の味がして苦かった。この苦さが彼が〈大人〉だと知らしめている。

 莉子はまだ子供だった。心の繋がりだけでは物足りなくて、身体の繋がりが欲しかった。
 どうしても純が欲しかった。

 忘れられない熱帯夜にふたりは共に溺れた。
 もう戻れないとわかっていても、
 もう引き返せないとわかっていても、
 もう離れられないとわかっていても、
 抗えない欲の海に、落ちて溺れた。

 インディゴブルーの熱帯夜の海。
 この海の底には、何がある?
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