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雨の降る夜は傍にいて…
第3章 9月の雨(September Rain)
 15 マスター①

「みっきさん…だよね…
 あの○○高校のコーチの…」

「えっ…」
 わたしはドキッとした。

 ああ、やはりバスケ関係者か…

 わたしを『みっき』と呼ぶ人は、基本バスケ関係者が殆どである。
 
 誰だろうか…
 そしてわたしはマスターの顔を見つめる。

「あっ、思い出したっ」

「おおう、思い出してくれたの、嬉しいなぁ…」

「△△南高校の大森コーチ…ですよね…」
 そうわたしが云うと、マスターは満面に笑みを浮かべて頷いた。

「そうです、よかったぁ、覚えてくれていて…」
 そうなのだ、彼は、以前、わたしが高校教師とバスケット監督をしていた時に2度ほど対戦した高校のコーチであったのだ。

「でも、このバーで…わからなかったです」

「そりゃそうだよねぇ、でも、こっちが本業…」
 彼は、マスターはにこやかにそう云ってきた。

「本業…
 そうだったんですか…」

「うん、あの頃は…紆余曲折、色々な経緯であの高校のコーチしてただけなんだ…」
 確か、この高校には2度対戦し、2度勝ったのだが苦戦した思い出が蘇ってきた。
 もちろんこっちは私立高校の県内有数の選手を集めたシード高校であり、対する△△南高校は普通の県立高校なのだが、このマスターがコーチの時は実によく鍛えてあってかなり苦戦した記憶しかなかった。

「もう四年前位ですかねぇ…」
 この懐かしい思い出で、わたしはガンのショックが少し和らいでいたのである。

 今夜のような、昔の現役時代の話しは嫌いなのであったのだが、この指導者時代の話しは色々な苦労も沢山あったのであるが、わたし自身の中では良い思い出として存在しているのであった。

 だからふさぎ込んでいた心も少し楽になっていたのだ…




 

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