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雨の降る夜は傍にいて…
第3章 9月の雨(September Rain)
 17 マスター③

 10月、約二週間の入院を経て、無事に大腸ガンの手術は終わった。
 なんとか抗がん剤治療はせずに済み、後これからは三カ月に一度の定期検査で良いとなったのである、とりあえずひと安心である。

「みっきさん、退院おめでとう、とりあえずよかったね…」
 退院して二日後にこの
『バーウーッズ』に来店していた。

 別にお酒が飲みたい訳ではなかった、ただこのマスターに会いたかったのだ、いや、話しがしたかったのである。
 マスターは入院中に、五冊の小説を差し入れてくれた、そしてどれも全部が面白かったのである。
 だからその小説の差し入れのお礼もしたかったし、一つ気になる事もあったのだ。
 
「差し入れてくれた小説、みんな凄く面白かったです…
 ただ、一冊だけ気になったのがあって…」

「えっ、なに…」

「あのちょっとだけいやらしい内容の…
 相合い傘が出てくる話しなんですけど…」

「あっ…」
 と、マスターが急に照れくさそうな顔をしてきたのだ。

「実は、アレ…
 俺のデビュー小説なんだよ…」

「ええっ、やっぱり、そうなんですかぁ…
 なんか、作家名が大森豪って…
 あれ、マスターの名前かなぁって…」

「いや、お恥ずかしい…
 大学生時代に書いて、一応、当時、某小説雑誌の新人賞になってさ、デビューしたんだけどさ…」
 で、単行本になったのだが、その後はサッパリ売れなかったのだ…
 と、恥ずかしそうに話してきたのである。

「で、調子に乗って差し入れてみたんだ…」

「あ、でも、あのお話しは面白かったですよ」

「ありがとう、でも、結局、あれだけなんだよ、あれ以降ピタリと書けなくなってさぁ…」

「そうなんですかぁ…」

「でも今になってさぁ書きたくなって、今は某ケータイ小説サイトで書いてるんだよ…」

「ええっ、わたしに教えてくださいよぉ、読みたい」

「うん、じゃあ…」
 マスターはそう言ってそのサイトを教えてくれた。

「なんか、入院中に思ったんですけどぉ…」

 そしてわたしは入院中に心に思った事をマスターに話していく…

 なぜか、このマスターには何でも話せる、話したくなるのであったのだ。

 穏やかな受け答え、そして色々な博学的な知識、打てば響く太鼓のようにマスターのその言葉がわたしの心に染みてくるのである…








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