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雨の降る夜は傍にいて…
第3章 9月の雨(September Rain)
 28 マスター⑭

「ゆりさんは…
 いつもこんな雨の夜に来るなぁ…」
 わたしは10月に退院してから約半年の4月の半ばの今夜、こんな感じに云われるような低気圧の影響が強い雨の夜によくこの
『バー ウーッズ』
 に通ってきていた。
 そしてほぼ、こうして二階の仮眠室と呼ぶ、ヤリ部屋で、わたしが誘い、マスターに抱かれていたのであった。

 マスターはこの頃は、わたしを、以前の
『みっきさん』
 から
『ゆりさん』
 に呼び方を変えていたのだ。

「うん…だって…
 こんな夜は、雨の夜は…
 ダメなの…
 昔の古傷や、この前の手術痕が疼いて…
 そして…
 心も疼いちゃって………
 豪さんに抱かれないと眠れないの…
 ううん、傍にいてくれて、抱き締めて欲しくなっちゃうの…」

 と、わたしは応えた。

 この頃のわたしも
『マスター』
 から、大森豪
『豪さん…ごうさん』
 と、呼び方を変えていたのである。
 
 もっとも、この豪さん、ごうさんとの呼び方は、周りの常連客が皆、そう呼んでいたのに従っただけなのだが、マスターよりは親近感が感じられるのでわたしも周りに真似たのだ。

「そうか…
 傷と…心が…疼くのか…」
 豪さんはわたしを抱き締めながら、そう呟いた。

「うん…」

 わたしはこの頃は、すっかりこのマスター、豪さんに心酔していたのだ。

 穏やかで…

 博学で…

 理知的で…

 優しくて…

 温かい目でわたしをいつも見てくれている…

 決してわたしを束縛せず、自分の我を押し付けてこない…

 そしてセックスが上手であり、アソコがわたし史上、一番大きく、最高に感じてしまう…

 それになにより嬉しいことは、豪さんはモテモテなのである、周りに数多く存在しているキャバクラのキャバ嬢の数人からも、相談と称して二階に消える程にモテモテなのであった。
 だが、そんなキャバ嬢達が先に来店していても、こうしてわたしが訪れると必ず、わたしを最優先してくれるのである。

 これが、また、わたしの自尊心までをもくすぐってくれ、更にわたしの彼に対する想いまでをも昂ぶらせてくれるのであった。

 わたしにとっては理想的な彼氏であり、セフレであったのだ…




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