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雨の降る夜は傍にいて…
第5章 秋冷え…
 20 無自覚の涙

『ピンポーン…』
 
 玄関チャイムが鳴り響く…
 彼が来た。

 ガチャ…
 ドアが開き彼の姿が見えた瞬間であった、わたしの目から涙が溢れ落ちたのだ。

 えっ、なんで涙が…

「ゆり…」
 彼はわたしの涙を見て抱き締めてくる。

 だがわたしにはこの涙に自覚が無かったのだ。
 
 なぜ涙が溢れるているのか…

 なぜわたしは泣いているのか…

 初めて感じた『不倫』という現実的なショックに、カラダが自然に反応をしたのかもしれない。

 過去の、約五年前の大学三年の春先に、バスケ選手として絶好調の現役時代に突然ケガをして選手生命を絶たれた…
 その時、再起不能を告知された瞬間にも、全く自覚しないで自然に涙がこぼれ落ちた。
 そしてその時に、この先の人生の中で、もう、自覚無しで涙を溢す様な程の、あの衝撃以上の想い等はしない…
 と、思っていたのだが…

 今、また、再び、自覚無しで涙を溢れさせている。

 それ程のショック、心の衝撃なのだろうか…
 と、わたしは彼に抱き締められながらぼんやりと想っていた。

「あ…、あの…」

「うん、わかっている、何も言うな…」
 彼はそう呟き、まるでわたしの口を塞ぐかの様にキスをしてきた。

「あ…」
 そのキスで、彼の熱い、わたしに対する想い、愛情が流れ、入ってくる。
 
 そのキスに、きつく抱き締めてくる力に、心とカラダが震えていた。

 ああ浩司…

 なにもかも忘れる位に抱いて欲しい…

 めちゃくちゃに、何も考えられない位に愛して欲しい…

 涙で溢れる目で、わたしは彼に訴えた。

「ああ、ゆり…」
 そして彼にはその想いが伝わったのだろうか、そう呟き、熱い想いのキスをしながら上着を脱がせてくる。

「ゆり、お前を愛しているんだ…」

 ああ…

「お前しかいないんだ…」

 ああ…

 その囁きに心が蕩けてしまう。






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