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雨の降る夜は傍にいて…
第5章 秋冷え…
 25 愛の熟成

「いらっしゃいま……あ」
 わたしは二週間後の遠征から帰ってきた夜に、自宅に戻る前に浩司のいるスポーツバーを訪れた。

「おかえり…ゆり…」
 お店のドアを開け、出迎えてくれた彼は、あの優しい笑顔でそう云ってくれた。

「……うん…ただいま」
 あの一目惚れした笑顔を見て、思わず涙が込み上げてきたのだがわたしは必死に堪えたのだ。

 ここで、この店の中で、涙を溢す訳にはいかない、ましてや、泣く理由等無いのだから…

 ただの、二週間ぶりの再会なだけなのだから…
 そう自分に、必死に言い聞かせた。

「い、今帰ってきたの…」

「うん、そうか…」
 そしてわたしはカウンターに座わる。

「いらっしゃいませ、ゆり先生」
 女性バーテンダーの麻里さんがそう声を掛けてきた。
 その彼女の目を見ると、なんとなくこのわたしと彼との経緯等を理解している様な目であったのだ。

 彼はある程度、麻里さんにはよく話すらしい…

「ブルドッグがいいかな…」
 わたしはソルティドッグの塩抜きを頼む。

「遠征はどうだったんだ…」
 彼が隣に座り、そう声を掛けてきた。

「うん、結果は良かったわ、すごくよく仕上がってきたわ」
 そう言いながら、わたしはカウンターの下で彼の手を握る。

「いろんな意味で開き直れて、良くなったみたい」
 そう呟いた。
 バスケットの事なのだが、今のわたしの心境の意味を込めての呟きである。

「あ…うん、そうか…、良かったわ…」
 すると、彼には意味が伝わったようで、握ったわたしの手をキュッと握り、そう言ったのである。

 そして、その目には
 安堵、安心、愛情の昂ぶり…
 の想いが映っている様にわたしには見えたのだ。

 そしてその一杯のカクテルを飲み、わたしは店を出る。
 
 待ってる…
 そう目で伝え、麻里さんに挨拶をして、店を出た。

 わたし達はこの冷却期間の二週間という時間で、お互いの愛情を熟成したのだ…

 そしてそれは確認できた。
 だから、つまらない言葉はいらないのだ。

 奥様の存在感を乗り越える事は出来ないが、サラリと流す事が出来る様には開き直れたとは思うのだ…

 なぜならば、わたしは彼とは別れる気持ちは全く無いからである…

 いや、別れられないくらいに愛してしまったのだ…





 
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