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雨の降る夜は傍にいて…
第5章 秋冷え…
 40 嘘…

 これだっ
 この胸の昂ぶり…
 この鼓動の高鳴り…
 この心が焦れる様な焦燥感…
 そしてヒリヒリと湧き起こってくる背徳感に罪悪感…
 わたしはこの刺激を待っていたのだ、いや欲していた、切望していたのである。

「ぜひともいかがですか、もっと色々と話しを聞きたいなって…」
 この親子は、夫であり父親である浩司とわたしとの『不倫』という禁断の、不貞な関係の事実は全く知らないのだ。

 そんな愛の裏切り行為である『不倫』相手のわたしと食事をしたいと云う…
 堪らない刺激である…
 そしてこの刺激を待ち望んでいたのだ…

「じゃあ、せっかくですから…」
 少し考えたフリをして返事をした。

「ああよかったわ、じゃあ今夜7時にお店でよいかしら…」

「はい、是非とも伺わせていただきますね」

 ドキドキドキドキ…

 バクバクバクバク…

 帰途のクルマに乗り、着替えの為に一度アパートに戻る道すがら、一向に昂ぶりと鼓動は治まる気配がなかった。

 ああ、この興奮、堪らないかも…

 そしてこの興奮はわたしにとって、本当に堪らない刺激となったのである。
 わたしはこの夜を機に、この様な刺激と浩司からの麻薬の様なセックスに更に、ますます、激しくハマっていくのであったのだ。

 愛の暴走は止まらずに加速していくのである…

 そしてわたしは着替え、ステーキハウスへと向かう。

「おい、ゆり、今からアイツと食事するんだって」
 すかさず奥様から訊いたのであろう、浩司からの電話が入る。

「あっ、うん、なんだか流れで断れなくって…」
 わたしは咄嗟に嘘をついた。
 さすがに本当のことは話せない。

「大丈夫なのか」
 彼はもっともな心配をしてくる。

「うん、多分、大丈夫よ、もう開き直れているし、頑張れるはず…」
 彼に対するこの嘘をつくという背徳感も堪らなく心を騒つかせてきていた。

 わたしはこの夜から、この件に関しては、完全に彼に対し嘘をつくようになっていくのである。
 
 だって、まさか、刺激が欲しいからと本当のことを言う訳にはいかなかったし、もしも本当のことを話したならば、呆れられるか、下手したら嫌われてしまうかもしれないからであった…

 だが、わたしはこの夜から色々な意味で変わっていったのである。

 本当に転換期を迎えた様であったのだ…




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