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雨の降る夜は傍にいて…
第5章 秋冷え…
 41 不惑な想い

「こんばんは、甘えて来ちゃいました」
 ステーキハウスに到着する。

「わざわざありがとうございます」
 通された個室には奥様と娘美香ちゃんの二人が待っていた。

 この親子と個室で食事をする…
 この事実に、わたしの胸は背徳感と罪悪感でヒリヒリとしてきていたのである。

「なんか美紀谷先生はよくスポーツバーに来店して下さってるって、夫からよく聞いていましたけど、ここにも結構来ていただいてるんですね」

「あ、はい」

「店長がそう言ってましたから」

 店長か…

 確か、店長もわたしと浩司の関係は知っている筈であった。

 ということは、店長もまた、違った意味での背徳感と罪悪感を多少なりとも感じている筈である…

 浩司曰く、この店長と、居酒屋の店長の二人には絶大な信頼を寄せている…
 と、以前に話していた。

 行く行くは店を譲ってもよい…とも。

 そしてわたしは改めて奥様を眺める。

 奥様は涼子さんという…
 年齢は浩司より7歳年下の38歳、スレンダーな美人で、物腰柔らかな印象で、良家の元お嬢様らしい…
 その感じからは、娘美香ちゃんは浩司似であると思われた。

「先生、じゃぁーん」
 美香ちゃんはそう言いながら、わたしの高校時代のバスケット雑誌を見せてきた。

「あら、そんな昔の雑誌」

 確か今からだと約8年前位になるか…

「はい、私、ミニバスからこの雑誌買ってて、探したら先生載ってて…
 思わず持ってきちゃいましたぁ」
 明るく、無邪気に言ってきたのだ。

「そうなんだ…」
 
「すごいですよね、先生沢山載ってて…
 私、この雑誌に載るのも夢なんです…」

 確かにわたしは中学時代から全日本アンダーのメンバーの常連であり、そして各時代の全国大会でもそれなりに活躍したから雑誌にはある程度は載ってはいた…

「なんか、恥ずかしいわぁ」

「ええー、すごいですよぉ…」
 明るく、無邪気な笑顔であった。

「本当、私も拝見しましたけど、すごいですよねぇ」
 奥様までもが素直に、明るく褒めてくれる。

 ドキドキドキドキ…
 その言葉に胸が高鳴る。

 ザワザワザワザワ…
 心が騒めいてくる。

 ヒリヒリヒリヒリ…
 そしてこの二人の無邪気な明るい笑顔に、背徳感と罪悪感が昂ぶりを見せてきていた。

 不惑な想いである…



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