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雨の降る夜は傍にいて…
第2章 春雷
 10 瓜二つ

 ゴロゴロゴロゴロ…

 あっ…

 わたしは春雷の雷鳴でふと我に返る。

 いけない、つい、昔を思い出してしまった…
 そう思いながら目の前の木村ただしの弟、木村啓介の顔を見つめ直す。

 ああ、やだ、あの当時のたーちゃんにそっくりだわ…

 なんで先週の授業の時に気付かなかったんだろう…

 これだけ似ていたらすぐに目に入るはずなのに…


「先週は大会で休みだったんです」
 すると啓介くん、啓ちゃんは、まるでわたしの心を読み取ったかのようにそう言ってきたのである。

「あ、そ、そうなんだっけ…」
 先週は初めての授業で緊張していて舞い上がってしまって、あまり記憶がなかったのである。

「俺…あの頃の兄貴と…」
 そっくりでしょう…
 そう、啓ちゃんは話してきた。

 わたしは黙って頷く。

 そっくり、瓜二つのようだわ…

 だから、つい、あの頃のアレを…

 思い出してしまったのだ…

 あの青春の熱い想いと、思いを…


「おふくろも、よくそっくりって言いますよ…」

「あ、お母さんお元気なの…」

「はい、元気です」
 
 わたしはそのお母さんの夜勤の留守を狙って来訪していた訳なので、実質、ちゃんと会って会話をした事は二度しかなかったのだ。

 一度目は付き合い初めの頃…

 そして二度目は

 たーちゃんのお葬式の時…


 多分、その時のわたしはそんな事を思い浮かべていて、遠い目をしていたのであろう、啓ちゃんが機転を効かせて話し掛けてきてくれた。

「俺もこの前、ゆり姉ちゃんの姿を見た時、びっくりしたよ…」

「えっ、いつ…」

「ほら、この前の雨の日、体育館で…」

「あ、あの日か…」

 その日もいきなりの雨で、野球部の練習が室内練習に変わったのだ。
 そんな時の野球部は、体育館の二階通路、一周約200メートルを延々と走るのである。
 そしてその日はわたしがヘッドコーチとして正式に練習の指導を始めた初日であった、だから、周りを見る余裕などなかったのである。

 今なら、絶対に、昔の元彼に瓜二つの啓ちゃんを一発で見つける、目に入る筈なのだ。

 それくらい、瓜二つ、そっくりであった…

 ドキドキ、ザワザワ…
 
 ホント、そっくり…


 あまりにも似ていて、錯覚を起こしてしまいそうである…







 

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