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雨の降る夜は傍にいて…
第1章 台風の夜
 4 新たな昂ぶり

 だが、その傷痕の疼きの痛みは、新たに芽生えた昂ぶりともいえるのだ。

「社長ぉ、またぁ今夜も…ですかぁ」
 事務員の彩ちゃんが目を輝かせてそう訊いてきた。

「えっ、な、なに…」

「ダメですよぉ、しらばっくれてもぉ、わたしには分かってるんですからぁ…」

「えっ、な、何のこと…」
 わたしはそんな彩ちゃんの鋭い突っ込みにドキドキとしてしまう。

「こんな、台風やぁ、大雨の時はぁ、決まってぇ…」
 男漁りにぃ、行くじゃないですかぁ…
 彩ちゃんは妖しい目の輝きを見せながら、そう云ってきたのだ。

「えっ…」
 ドキッとしていた。
 
 この目の前の事務員の彩ちゃんは、元ヤンキーのヤリマン女だったのだと自分で自称してくるくらいなのである、だから、こと男女関係の事や、色恋には鋭く、そして敏感に反応してくるのである。

「そ、そんな、男漁りなんて…」

「ええっ、でもぉ、そんな感じですよねぇ」

「えっ、ち、違うわよぉ…」
 わたしは必死に否定するのだが、彩ちゃんの目は全てを悟っているような輝きでわたしを見てくるのであった。

「明日のぉ、社長のレポート期待してますからぁ、じゃあ、お疲れさまでぇす…」
 お先でぇす…
 彩ちゃんはそう云って退社する。
 彼女はまるで、わたしの事の全てを見透かしているようであった。

 やはり、彩ちゃんには適わないや…

「男漁りって…」

 そんな、そんなこと…

 ドキドキ、ウズウズ、ザワザワ…

 台風が接近しているのが
 
 傷痕の疼きで…

 心の騒めきで…

 胸の昂ぶりで…

 よりリアルに、感じてきているのである。


 ああ、台風が近づいてきている…





 
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