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雨の降る夜は傍にいて…
第2章 春雷
 29 手の平のマメ

「啓ちゃん、ごめん…
 なんか、つい、昔に戻ったみたいな錯覚しちゃって…」

 わたしは必死に言い訳をした…

 ドキドキ、ドキドキ…

 だって…

 だって…

 あの暗闇の中の、あの声がいけないんだ…

 あの声が…

 ドキドキ、ドキドキ…

 まるで7年前のただしそのものの声だったから…

 記憶の中の同じ声だった…

「ゆ、ゆり姉ちゃん…」

 そして目の前にいるのは弟の啓介くん…

 いや、ただし…

 あの頃と…

 同じ顔…

 同じ背格好…

 同じ声…

 そして同じ汗の匂い…

「ゆり姉ちゃんっ…」
 感極まった啓介くんがわたしの腕を掴んで引っ張ってきた。

「あっ、け、啓ちゃん…」

 あっ…

 同じがさがさの手の平の素振りのマメ…

 誰…

 誰なの…

 啓ちゃん…

 いや、たーちゃん… 

 アナタは誰なの…

 どっちなの…

 啓介くんはわたしをグイっと引き寄せて、抱き締めてきた。

 ああ、汗の匂い…

 啓ちゃん、たーちゃん…

 ゴロゴロゴロゴロ…

 春雷の雷鳴が再び音を大きく響かせてくる。
 この土地の雷は、山からの冷たい空気と、街中の暖かい空気がぶつかり合い、雷雲となる、そして一度街中に降りてきて再び山に戻り、また山の冷たい空気に押されて戻ってくるのだ。

 ゴロゴロゴロゴロ…

 再び春雷が戻ってきた。

 そしてわたしの目の前にも、弟の啓介くんの姿を借りて、たーちゃん、ただしが戻ってきたかのようであったのだ…





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