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雨の降る夜は傍にいて…
第2章 春雷
 52 後悔先に立たず…

 俺は思わず、禁断の問い掛けをしてしまったのである。

「兄貴と、どっちが…」

「えっ…」
 ゆり姉ちゃんの動きが止まった。

 あ、マズった…

 それは訊いてはいけない…
 

 バカだ…

 俺はバカだ…

 ゆり姉ちゃんが動きを止めて、ジィッと俺を見つめてきた。

 やばい…

 怒ってる…

 怒るに決まってる…

 ゆり姉ちゃんはついちょっと前までは、あれ程俺の事を、兄貴と間違って、いや、昂ぶりの興奮のせいで、混乱と錯覚を起こし、何度となく俺の事を兄貴の名前で呼んだりしていたのだ。
 そして、それは突然、当時の亡くなった兄貴と瓜二つの俺が現れたのだから、一瞬のうちにゆり姉ちゃんの想いが過去にタイムスリップの様に遡り、混乱、錯覚するのは当たり前だったのである。
 ましてや、俺は、そんなゆり姉ちゃんの混乱と錯覚の心理に乗じ、また、利用して、兄貴に成りすましたかのようにゆり姉ちゃんに近づき、接して、こうしてセックスまで辿り着いたのだ。

 それなのに…

 俺はバカだ…

 このゆり姉ちゃんの部屋に移動してからは、ゆり姉ちゃんも必死に自分自身の混乱と錯覚に向き合い、兄貴の名前を呼ばなくなった、いや、呼ばないように頑張ってくれていたのだと感じられていたのだ。

 それは俺の兄貴に対するコンプレックスに気付いてくれ、ゆり姉ちゃんなりの思いやりなのだ…

 と、そのゆり姉ちゃんの優しい気持ちを十分に理解をし、いや、察知していたのに。

 俺は…

 俺は、つい、心を油断させて…

『兄貴とどっちが…』
 なんて事を訊いて、いや、口に出してしまったのである。

 俺はバカだ…

 
「ふうぅ…」
 ゆり姉ちゃんはそんなため息を漏らし、ゆっくりと腰を浮かして、俺のチンポを抜いてしまったのだ。

 ああ、引き抜かれてしまった…

 やっぱり怒ってるんだ…

 俺は、最悪だ…

 今更ながら、後悔の大波が心を波立たせてきていた。


「やっぱり…そうよね…」
 少し呆れ気味な顔をしているように見える。

「気に………なるよねぇ…」

 呆れているんだ…

「ふうぅぅ…」
 と、吐息を漏らしてくる。



 ああ、最悪だ…

 ゆり姉ちゃん…

 ご、ごめん…

 正に後悔先に立たず……であった。





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