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雨の降る夜は傍にいて…
第2章 春雷
 62 秘密

 そしてそれは、わたしにしかわからない秘密なのであるから…

「えっ、それって…」 
 それは何の意味なのか…
 そう尋ねようとしたのであろう、わたしの方を向き、口を開こうとしたのだ。

「いいの…」
 その時わたしは、そう呟きながら、啓ちゃんの口元に人差し指を押し当て、口を閉ざしたのだ。

 いいの…

 いいのよ…

 今は啓ちゃんは知らない方がよい…
 わたしはその彼の口元を押さえた人差し指に、そしてそうしながら彼を見つめる自分の目に、そんな想いを込めたのである。

 そして啓ちゃんはそんなわたしの仕草にボーっとしていた。

「いいのよ、わたしに任せて…」
 更に続けてわたしはそう呟いた。

 わたしに任せて…

 任せて…

 それはわたしにしか、わたししか知らない秘密であり、わたしがこれから啓ちゃんを導いていくのだから…

 だからわたしに全てを任せてくれていいのよ…

 わたしは啓ちゃんを見つめる自分の目に、そんな想いを込めていくである。

「あっ、冷たい…」
 わたしはシーツに溢れた啓ちゃんの精子の跡に触れてそう呟く。

「ああ、ごめん…」

「こんなにたくさん出たんだね…」
 わたしは笑う。

「う、うん…」

「でも…
 これからは気をつけなくちゃね…
 それにアレ、コンドームも用意しないとね…」
 わたしはそう呟いた。

「えっ…」
 啓ちゃんは嬉々とした驚きの声を上げる。

「買うの恥ずかしいのよねぇ、あ、そうだ、通販があったわ…」
 わたしは続けて独り言のように呟いていく。

「あ、あの、ゆり姉ちゃん…」

「えっ、なに…」

「そ、それって、そのぉ、つまり…」

「当たり前でしょう、終わりじゃなくてこれからが始まりよ」
 わたしは笑顔で、そして色々な意味を込めてそう云ったのである。

「は、始まり…」

「そのかわり、毎週水曜日限定ね…」

「あ、うん…」

「それに、絶対にバレないようにっ」

「うん」

「それにわたしは教師だからね、忘れないように」

「う、うん、美紀谷ゆり先生…」

 これから毎週水曜日の夜が始まっていく…

 そしてこの木村啓介をすごい野球選手にわたしが導いていくのである。

いつの間にか、春雷は遠ざかって消えていた…

 これから季節は夏へと変わっていく…


  第2章 春雷  完






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