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甘い蜜は今日もどこかで
第4章 【届かない想い】





レンタル彼女もレンタル妻も、もう終わり。
気持ちが……心が追っつかないでしょ。
割り切るけどやっぱりどうしても空虚感が襲う。
未熟だな、全然プロじゃなかった。
思い知った。
誰かを想うことでこんなにコントロール出来なくなるなんてね。




最後まで手を繋いで恋人同士を演じきった。
サヨナラの時間は寂しいって思ってもらえたら嬉しい。
魔法が解けてくね。
キャストとクライアントに戻ってく。




「今日は本当にありがとう、アキと過ごせて俺の方こそ嬉しかった、こんなに長く独占しちゃって疲れただろ?ゆっくり休んでね」




「ううん、楽しかったし疲れてなんかないよ、ゆずくんに選んでもらえてとっても嬉しかったから…」




自然とこうして涙ぐめちゃうのは長く働いている証拠。
後で自分が嫌になっちゃうパターンだけど。




「最後にもう一回、ハグしても良い?」




「………うん」




こうして期待持たせちゃうのは後々自分の首を絞めるってわかってるのに。
バイバイして立ち去るまでは恋人で居てあげたいって気持ちはレンタル始めた時に決めていたから。




「好きになってごめん、アキ」




そう言われて首を振るしかなかった。




「そんな資格ないけどありがとう」




終わらせなきゃ。
告白なんてさせちゃいけない。
黒本さんもわかってるはず。
私たちはレンタルの関係だから。
間にいくつもの契約がある。
だから、本気になっちゃダメなんだよ。
最初にそれはサインしてもらってる。




「また、会う日まで頑張るよ」




その“また”はきっともうない。
でも頷いてしまった。
夢のままで終えたいから。
黒本さん、もうあなたなら大丈夫。
私から卒業です。
ちゃんと出来ていましたよ。




「行ってください」




最後はそう送り出した。
何度も振り返る黒本さんに手を振りながら見えなくなるまで。
ありがとう、と呟いて。
最後のレンタル彼女が黒本さんで本当に良かったです。










暫くその場に立ちすくんでいた。
後ろから優しい声で私を呼ぶジロウにすぐ振り返ることが出来ずにいた。




「椿さん……?」




「うん、帰ろうか」










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