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甘い蜜は今日もどこかで
第5章 【もし間に合うのなら】
「ふーん、大丈夫だと思うけどね、私、基本的に自分の都合で仕事止めたくないんだよね、トイレくらい我慢するよ、けど何かあったらちゃんとジロウにアイコンタクトする」
「あ、あの…!それもそうなんですけど」
「ん……?なに?」
首を傾げると、ギュッと両手を握ってきた。
「椿さんがプロなのは充分わかっています、僕に言われるまでもないでしょうけど………それでも、撮影が無理そうなら僕の方を見て首を振ってください、直ちに撮影ストップさせますから」
あまりにも気迫負けしそうな勢いで話してくるからびっくりしたけど、こんなジロウは初めてだ。
どうしたの?
まだ撮影すら始まってないのに。
どんな分野でも引き受けたからには最後までやり抜くのが社訓でしょ?
逃げ出すなんて選択肢はないよ。
「嫌なの?私がこの仕事するの」
「いや……そういう訳じゃ」
「だったら最初から最後まで応援しててよ、私、ジロウが傍に居てくれるから前を向けるんだよ」
私の言葉にハッとしたみたいで手を離してきた。
いつものジロウの笑顔になった。
「はい、ですよね、ずっとずっと応援してます」
「そうそう、それがジロウでしょ」
そうこうしているうちにMVの主役であるアーティスト、DAiKIさんがスタジオに到着した。
吉原さんも来てくれて「お、仕上がってるじゃん」と褒めてくださる。
ジロウと2人で連れられDAiKIさんの待機する部屋にご挨拶しに向かった。
「はーい!どうも!」
ちょっとワイルドで、ちょっとチャラくて、ちょっと扱いにくそうな人だった。
ミルクティーカラーのゆるふわパーマで何気にジロウと髪型被ってる。
ジロウは黒髪だけど。
マネージャー同士で名刺交換している。
「とにかくこの撮影3日間は俺だけの彼女になってくれる?それくらいの気持ちで挑んで欲しいし、撮影進めれば進めるほど気持ちが重なって離れがたくなるまで陶酔して欲しいんだ、良い?」
真顔で言われて真顔で返事する。
「勿論です」と。
そう言われるのは想定内で何度もイメトレはしてきたつもり。
細かい訂正箇所は撮りながらすり合わせていくことにして、それなりの覚悟はしてきましたが。