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甘い蜜は今日もどこかで
第5章 【もし間に合うのなら】
「やっぱり気に入った!キミを指名したこと、最後まで後悔させないように俺に気持ち全部預けてね」
契約内容の確認等は吉原さんも含めて行い、撮影は予定時刻きっかりで始まった。
楽曲は全て予め聴いて覚えている。
「それではアーティストのDAiKIさん入られまーす!」
スタッフに紹介され皆さんに挨拶して現場に入る。
「恋人役の藤堂椿さん入られまーす!」
「宜しくお願いします!」
まずはロケーション撮影で海沿いをサンダル脱いで歩き、手を繋いでいるけど私がよろけて寄り掛かるシーンから。
付き合いたての初々しさみたいなのを醸し出さなければならない。
身長差は10センチほどかな。
上手く私の顔が映らないように撮ってもらっている。
足だけ海に入ってはしゃいだり、抱き合ったり、私がおんぶされたり。
DAiKIさんも流石に演技が上手い。
真っ直ぐ見つめてくるし、笑顔や仕草も自然体でリラックスしてる感じが伝わってくる。
音声は入ってないけど何気に「つーちゃん」て呼ばれてる。
「椿」だと口の動きでバレちゃうこともあるから。
太陽光がDAiKIさんの髪色に上手くマッチしてキラキラ輝いている。
自然と私も「ダイちゃん」と呼んでいた。
浜辺でベンチ代わりに大木に座る2つの影。
DAiKIさんが私の肩に頭を乗せて、重なる影をカメラが撮っている。
その影と私たちの頭上がワンフレームに収まって、初のキスシーン。
というより、これから撮る全てのシーンにキスシーンは含まれる。
“キス”がテーマの歌だから。
念入りに打ち合わせもした。
一発撮りで済むように。
カメラアングルも全て頭に入ってる。
顔が映らないように細心の注意を払って。
ほんの少し唇が触れるか触れないかの距離で指先にカメラが切り替わるはずだった。
あたかもキスしている2人であるように、指先を絡め合うシーンを最後に海辺でのロケーション撮影は終了かに思えたのだが。
熱い視線を向けてきたDAiKIさんがアドリブで唇を重ねてきた。
下唇を甘噛みされて、離れて、またくっついて。
流れは悔しいほどに完璧で、打ち合わせにはなかったディープなキスシーンが撮り続けられている。