この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
甘い蜜は今日もどこかで
第5章 【もし間に合うのなら】
「おはようございます、椿さん」
ホテルのロビーでジロウと待ち合わせしていた。
これから一緒に現場に向かう。
いつもと変わらない笑顔が私の心を落ち着かせる。
「おはよう、ジロウ」
昨日のことは決して口にしないけど充分に意識していることだけはわかった。
つい唇を見ちゃってすぐに視線を逸らしてはタブレットに目を向ける。
中学生じゃないんだから。
リアルの恋愛はポンコツ過ぎるぞ、私。
現場に着くとすぐにDAiKIさんが駆け寄って来た。
「おはよう、つーちゃん、よく眠れた?」
「おはようございます……あ、おはよう、ダイちゃん、寝れたよ」
すかさず前髪にキスしてきて肩を抱かれてしまう。
そしたら後ろからジロウが
「椿さん、忘れ物です」とカーディガンを羽織らせてきた。
バチッと男同士の火花が散った気がした。
「あ、ありがとう」
「風邪ひくといけないですから」って優しい笑顔を向けてくる。
「優しいマネージャーさんだね」と再び肩を抱き寄せジロウから私を遠ざけた。
「じゃ、打ち合わせ行こうか」
「うん」
「行ってらっしゃいませ」
え、怖っ。
行ってらっしゃいませ、なんて言われたことない。
チラッと振り返り“ま、た、ね”と口パクしたらDAiKIさんが顎クイしてきて
「朝から浮気?俺だけ見ててってば」って注意されてしまった。
2日目の撮影はスタジオで。
彼女の誕生日をお祝いしてケーキを食べながらキスシーンも。
ベットの上で朝を迎えるお泊まりシーン、仲良くじゃれ合うシーン……とにかくキスシーンのオンパレード。
思い出を振り返っている大事なシーンなんだよね。
他愛もないことで喧嘩したりすれ違ったり、離れたり…を乗り越えて最後は結婚までの流れを今夜撮れるかどうか。
時折混ぜてくるアドリブに応えなきゃならないし、NG連発しちゃうと撮影時間も大幅にズレ込む。
それだけは絶対に避けなきゃ。
ヘアメイク中も傍に居るなんて、メイクさんも緊張しちゃってる。
隣で「可愛い」って手を握って平気で言ってくるからずっと恋人役に徹しなきゃいけない。
バカップルってやつ?
こんなのが理想なのかしら?