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甘い蜜は今日もどこかで
第1章 【本当は嫌なのに】
「ダメだ、大事なスポンサーさんなんだ、今日しかない」
まぁ、そこまで言うんなら…と準備を進めようとしたが軽い目眩で私の方へ倒れ込んできた。
抱き支えるような形でソファーに座ってしまう。
「す、すまん!大丈夫か?藤堂はちゃんと定時で帰れよ?俺は大丈夫だから」
それは知っている。
やると決めたらやる男なのだということも。
この数週間で何となく気付いてる。
でも頑張り過ぎるのも見過ごせないのはまた私の悪い癖なのだろうか。
「あの、お酒も飲まれるんですよね?」
「大丈夫、俺こう見えて強いんだぜ?」
「お供します、20時には終われるようにアシストしますから」
「アシストって……先方が気を悪くしたら台無しだぞ」
「私を誰だと思ってるんですか?その辺はどこよりもプロですよ?」
「あ……でも規定違反になるんじゃ……」
「来て欲しいですか?それともこのまま帰らせますか?副社長の意思を尊重します」
「来て……欲しいです、良いの?」
「事前に報告だけさせて頂きますね」
案の定、電話であらら…ウフフと冷やかされたがオプション料金が上乗せされるので大喜びだ。
ジロウにも連絡を入れてもらう。
毎日会社前まで迎えに来てもらっているが今日は会食に使われる老舗の料亭の場所を伝えておく。
さり気なくお酒をお水に代えて手渡す。
注がれたもの以外は極力飲まさないようにした。
知らない話を振られても誤魔化し誤魔化しで乗り切ったら逆に興味を持たれて私が話すばかりになってしまい途中で何とか話題を戻したりした。
「助かったよ」と最後まで何とか乗り切ったが自分が思う以上に酔いが回っていたことに気付かないで居た。
時間通り20時には解散。
副社長と並んでタクシーまでお見送りし、無事に終わった。
「突き合わせて悪かった、お酒セーブしてくれたから最後まで乗り切れたよ」
安堵の笑みを浮かべて「良かったです」と言った直後にクラッときて思わず寄りかかってしまう。
「大丈夫か?」と顔を覗き込まれたが、もうひと仕事終えた気になってしまった私は「エヘヘ」と笑い上戸にスイッチが切り替わる。
それにいち早く気付いてくれるジロウがもうじきやって来るだろう。