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甘い蜜は今日もどこかで
第1章 【本当は嫌なのに】
「そういやジロウ、あの日副社長に何か言った?」
「え、謝罪はしましたけど」
「だよね!その節はどうもお世話様でした」
珍しく今日は家に上がり込みご飯作ってくれるらしい。
「どうせ僕が居なかったらろくなもの食べてないでしょ?」って見抜かれているのは癪に障るけど大体合ってる。
何よ、距離置いたり縮めてきたり。
久しぶりにシャワー後にキッチン立ってるジロウをバックハグしてイチャつく。
絶対に邪魔だろうけど今日は優しく笑って振り払おうとしない。
ちょっとこっちが拍子抜け。
「暑くないの?」
「ん〜言っても椿さん退かないじゃないですか、もう終わるんで」
「麻婆豆腐!辛い?辛い?絶対辛くして」
「はいはい、四川風ですよ」
「やった〜!ジロウの麻婆豆腐好き!」
パッと離れてレンゲ持ったまま席に座る私の隣に座って髪を耳にかけてくれる。
「お疲れさまです」ってその一言で疲れなんて吹っ飛んじゃうんだよ。
極上のスマイルで手を合わせる。
「あっつ!!」
「あ、出来立てだから、フゥフゥーしてくださいよ」
お水を飲んで辛さと熱さに悶絶する。
舌を出してハァハァして、手で扇ぐ。
「火傷しました?見せてください」
べー、と舌を出して見てもらうと「少し赤くなってる」って言う時にはもう涙目になっていた。
「あふい……ヒリヒリする」
「そんなにがっつくとは思わなかったです」
「ジロウの麻婆豆腐好き過ぎてこうなっちゃうの」
「……治しましょうか?」
「薬あるの?」
「ありますよ、特効薬………」
ガタッと立ち上がり顔を近付けてきたジロウにドキッとした。
まさか、ジロウの方から……!?
一度じゃちょっと届かなくてもう少し前に出ようとしたらテーブルの脚にぶつかって悶絶し始めた。
え、何コレ……目を閉じてみたかったのに。
こんなオチまで用意してくれるのね。
でもこれがジロウなの。
肝心な時にこうなっちゃうのよね。
これも持って生まれた天性なんだと思う。
「小指っ……ぶつけた!」