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甘い蜜は今日もどこかで
第1章 【本当は嫌なのに】
資料は移動中に全部頭に叩き込む。
速読している間はジロウも話しかけてこない。
プレゼン資料も全てプロが作成し、それを脳でスクショした私がAIのようにプレゼンしていくだけ。
覚えるだけで良い仕事は本当、楽。
途中でどんな質問が来ようが答えられなかったことはないの。
何度かお世話になってる企業だし顔も覚えられているからやりやすいし。
「ねぇ、藤堂ちゃん、真面目にウチの社員にならない?」
「引き抜きは禁止ですよ?ありがとうございます、そのお言葉だけで充分です」
この会話も何回目なんだろう。
そりゃそうでしょう、社員より使える人材なんだから。
人件費が嵩んでも私に依頼してくるんだもんね。
「え、社長が代わった?」
確かに前回の社長は結構な歳だったか。
副社長であった息子さんがそのまま社長就任。
で、今回新しく副社長に就任なされたのが前社長のお孫さん。
初めて見たけど爽やかそうな好青年って感じ。
派遣といえど大きなプレゼンを任せられているので社長室へご挨拶に。
その時ちょうど副社長も居らしたので一緒にご挨拶を。
「便利屋……ですか、ウチの社員じゃプレゼンすら出来ないってことですか!?」って最初から社長に食ってかかってる。
昇進して張り切ってるんだね、きっと。
歳は30代てとこかな。
「まぁ、お前は初めてでわからんだろうが今後は彼女にウチの社員の教育もお任せしようかと思っててな」
「はぁ、人件費いくら掛かってるんですか、冗談じゃない金額でしょ」
まぁ、正規で一人雇った方がマシな金額ね。
「とにかくプレゼンの様子を見てみろ、お前も勉強になるはずだ」
うわ、何?めちゃくちゃ態度悪いじゃん、息子。
全然信用してないのが丸わかり。
そうよね、余所者だもの。
一気にやりにくくなったな。
「お手並み拝見しますよ」とか嫌味タラタラだし。
定刻になり各社が揃うプレゼン会場にていつも通りインカム着けて大勢の前に立ち、堂々とプレゼンしていく。
各方面からの鋭い質問にも詰まることなく、又は倍以上に返して説明するので質問する側も言うことがなくなっていくのだ。
(勝った、貰った)と心の中でガッツポーズするのだが、常に冷静にポーカーフェイスでやり過ごす。