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甘い蜜は今日もどこかで
第1章 【本当は嫌なのに】





マッサージの途中で案の定寝落ちしてしまった私。
それでも最後まで真面目に終わらせて出ていこうとしたら手握って離さなかったんだって。
私のせいじゃん。




「行かないで…て泣きそうな声で言うから」




朝から顔真っ赤だね。
言われなくてもわかる。
自意識過剰ではないと踏んでる。
ジロウはきっと、私が好き。
でも自信がないから行動に出れないことくらいお見通しなの。
面と向かって言われても困るんだけど。




この曖昧な関係が一番心地良い。
単なる私の我儘で都合も良い。
ジロウは絶対に告白なんてしてこない。
ヘタレだから。
ましてや自分が初めて担当する社員に対してスキャンダルはタブーなんだろう。
吉原さんにも言われてることだし。




「朝ご飯、作りますね」




「ん〜ジロウ、起こして」と手を伸ばす。
目を逸らして手を取り起き上がらせてくれる。
その手を離さずポスン…と胸に飛び込むのだ。




「つ、椿さん…!?」




「ん……1分だけ」




チャージするから待ってて。
速くなってるジロウの鼓動にクスッと笑いながら身体を預ける。
顔を上げたらきっと更に動揺するのかな。
その一挙一動が可愛くてつい意地悪しちゃう。




「あ、あの、椿さん、1分経ちましたけど…」




だよね、耐えきれなくなったか。
ヘタレなの忘れてた。




「よし、チャージ完了!」




「へ!?」と言うジロウの間抜けズラを見て、また新しい1日が始まる。
仲良く顔洗って歯磨きして、当たり前のようにイチャついては真っ赤にさせて。
「からかいすぎっす」って拗ねさせて。
朝ご飯作ってくれてる間にストレッチしたりしてほんの束の間の同棲生活もどきを楽しんだり。




セットアップのパンツスーツでオフィスカジュアル風に着替えるとヘアセットはジロウがやってくれる。
綺麗にまとめなきゃいけない時は張り切ってて楽しそう。
毛先を巻いてポニーテールに。
目立ち過ぎないピアスと腕時計をつける。




ポーッとした顔で見てるの気付いてるけど、もう仕事モードに入った私にハッとして慌てて資料の入ったタブレットを渡してくれる。
今日は1日、派遣社員としてとある企業に出向し代行プレゼンする予定だ。










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