パソコンから！ケータイから！スマホから！無料でどこでも気軽に楽しめる官能小説サイト

第62章 ８月29日　炎

「ハァ…ハァ…」
僕は家から走り出た。
何だよ…あれは…わけわかんないよ…
車のところまで戻った。するとお兄さんも、走ってきた。
なんで？
「泰子さんは？まりちゃんは？」
僕の問いに、お兄さんは
「知るか！どけ！」
僕を突き飛ばして、車に乗って走り去った。
どういうことだ？

圭は血だらけで縛られていた。まりちゃんは、いなかった。
あまりにも予想外で、怖くなって逃げ出した。
やっぱり僕は弱いんだ…
いや、ダメだ！圭を殺すって、泰子さんと約束したじゃないか！
戻ろう！今度こそ勇気を出すんだ！

家に近づくと、何だか焦げ臭い。煙が出ている。
え？火事!?
窓の向こうに火が見えた。
泰子さんは!?まりちゃんは!?もう逃げたの!?
家に入ろうとしたけど、ドアノブが熱くて触れない。
「泰子さん!!まりちゃん!!」
家の裏に回った。誰もいない。

窓ガラスが割れて、炎が吹き出した。
家の外側まで、燃えはじめた。もう近寄れない。
道路まで避難した。

まりちゃん…どこにいるの？
泰子さん…中にいないよね？
わからない…どうして…？

僕が逃げなければ…もっと強ければ…立ち向かっていれば…
きっと、こんなことにならなかった…

僕はその場に、へたり込んだ。

大切な人を…愛する人を…
一度に失った…
絶対守るって、誓ったのに…

涙がボロボロこぼれた。

まりちゃん…泰子さん…
ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…

炎は、あっという間に小さな家を飲み込んだ。

遠くから、消防車のサイレンが聞こえてきた。