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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第4章 Valet & Earl 〜従者と伯爵〜
…こうして、狭霧の従者としての日々が始まった。

屋敷の使用人たちの朝は、早い。
皆、暗い内から起床し、各々の仕事を始める。
特に従者の狭霧の仕事は目白押しだ。
まず最初にすることは、到着したての新聞にアイロンを掛ける仕事だ。
印刷されたばかりの新聞はインクが乾き切っていないので、そのまま渡すと主人の手を汚すことになるからだ。
エプロンを身に付け、作業室で慣れない手つきでアイロンを掛けていると、朝から完璧な身支度を終えたマレーがにこりともせずに呼びに来る。

「それが済んだら旦那様のお召し替えのお支度だ。
急げ」

こうも釘を刺す。
「だが、バタバタ走るんじゃないぞ。
君は伯爵付きの従者なのだ。
あくまで優雅に落ち着いて、けれど素早く動くのだ」

…そんなのどうやれっていうんだよ!
そう思いながらも
「はい。マレーさん」
従順に返事をする。
執事の指示は絶対だ。
狭霧はアイロンを置くと、手早く丁寧に新聞を畳んだ。
そのまま行こうとすると、またもやマレーから注意が飛ぶ。

「エプロンを外せ。
旦那様の前に現れる時は身なりを最大限に整えろ。
見苦しい姿は見せてはならない」
むっとする間もなく…。

「…旦那様のお召し替えが済んだら、そのまま本日の夜会のお召し物の準備だ。
ご出勤の前に、いくつかの候補から旦那様に選んで頂くのだ。
夜会服の説明をする。
衣装部屋に来なさい」

「はい。マレーさん」

…忙しすぎて、もはや反抗する気はとうに失せていた。





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