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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第6章 従者と執事見習い 〜執事見習いの恋〜
「…兄さん。着替えたよ」

午後は三笠ホテルにアフタヌーンティーを愉しみにゆこう…。
あそこのモンブランとザッハタルトは絶品だ。
帰りに友人のイタリア人が経営している靴屋で新しい革靴と乗馬用のブーツを買ってあげよう。
暁はこの夏大分背が伸びたからな。
靴がきついだろう?
お前はすぐに遠慮するからな…。

そう誘われていた。
だから暁は部屋で夏物の外出着に着替え、一階に降りてきたのだ。

…けれど、礼也の姿はどこにも見当たらない。
ホールは静まり返っている。
午後のこの時間は、家政婦やメイドは階下で仕事をしているのだ。
こちらで呼び鈴を鳴らさない限り、上がっては来ない。

暁は白いホールを横切り、居間に向かう、
…昼間でもひんやりとした居間にも礼也の姿はない。

「…二階のお部屋にはいなかったのに…。
どこにいるのかな…」

音楽室、図書室、心当たりのある部屋は全て覗く。
別荘とは言え、夏は社交場にもなる家だから部屋は二十近くある。
炭鉱王で名を馳せた祖父がわざわざ英国から設計士を呼び寄せ建てた洋館だ。
煉瓦も硝子も何もかも取り寄せた特注品らしい。
別荘に連れてこられるようになって、暁は縣家の財力に改めて驚かされたものだ。

それら全ての部屋にも、兄の姿はなかった。

…あとは…

暁は思い立ち図書室の奥、バルコニーの白い扉を押し開き、中庭に向かった。




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