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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第4章 Valet & Earl 〜従者と伯爵〜
マレーは驚いたように眼を見開き、やや険しい貌をして見せた。
「…恐れながら、旦那様。
サギリはまだ従者になりたてです。
ましてや、ロッシュフォール公爵家の夜会は格式が高いことでも有名です。
旦那様のお供は、まだサギリには荷が勝ちすぎるのではないでしょうか」
…それはやんわりと異議を唱えているのだった。

「マレー。君が心配してくれているのはよく分かるよ。
ありがとう。
…けれど、何ごとも経験だ。
『鉄は熱いうちに打て』…とね。
…西洋の諺でも、あるだろう?」
にっこり笑うと、マレーに目配せして見せた。

マレーの険しい表情が柔らかく緩む。
…仕方ないな…といった風に微苦笑する。
「…畏まりました。
それでは、旦那様が恥をおかきにならぬよう、サギリの万全の支度を整えます」
「ありがとう。マレー。
君は実に有能な執事だ。
君のように素晴らしい執事が居て、私は本当に幸運だよ」

マレーは一礼すると、ハミングでもしそうな上機嫌ぶりで部屋を辞した。

やがて伯爵は狭霧を振り返ると、端麗な貌に悪戯めいた表情を浮かべ、優雅に胸に手を当てた。 
「…ではシンデレラ。
帰宅するのを楽しみにしているよ」

…このひとは、誰彼となく、人タラシだ。

狭霧は呆気に取られ、心の中で呟いた。


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