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彼女はただ満たされたい
第2章 彼と彼と私
 突拍子もない提案をした健司を、私も充も目を丸くして見つめた。冗談ではなさそうだった。
「はぁ? やだよ。ゆり、二人でホテルに行こ」
 暗黙の了解のように彼らは互いに性行為があるのをわかりつつも、どんなことをしている、いつしているなど探ってくることはなかった。どちらかの前で私にホテルに行こうなんていってこなかった。
 健司の言葉で変わってしまった。
 ここで選ばなければいけないのかもしれない。
「冗談だよ。でも、ゆりは僕と一緒に行くから」
 そういいながら私の手を取って、健司が歩き出す。
 その手を振り解くのはたやすそうだった。引く力も優しい。
 振り返れば怒っているのか泣きそうなのかわからない充が、少しずつ遠くなっていく私たちを見つめている。彼はもう自分から連絡をしてこないだろうなとその瞳を見て思う。
 充は独占欲が強い。健司と別れてくれと何度いわれても、二人と付き合いたいと説得し、体の相性には逆らえず渋々付き合ってくれている充。
 セックスでは必ず俺を選ぶ。それが充の心を満たし、なんとか関係を続けてこれたんだろうと思う。
 でもこの状況はセックスさえも健司を選んだように見える。
 いや、私は選んだ。健司に流されてるんじゃない。
 充と終わりになることをわかっていて健司に手を引かれている。振り払わないことを選んだ。
 車に乗り込むと健司がいった。
「最近ゆりが僕だけのものじゃないことが辛いんだ。君と充がキスをしているところを見た時、胸が苦しくて仕方なかった。二人を引き離したいと思った」
 健司がうつむいてハンドルを見つめている。
「だから、ホテルをちらつかせてゆりを連れてきた。彼が断るのはわかっていたし」
 意を決したように私を見つめると健司は言葉を続ける。
「ゆりが僕だけじゃ物足りないのはわかってる。知らないところで浮気されてどこかに行かれるよりも、知っているところでもう一人の男とよろしくされている方が安心できると思ったんだ。自分が至らないのが悪い、我慢できるって……。でも、無理だった。セックスは苦手なんだ。でも、頑張るから僕だけを選んでくれないか? 自分勝手なことはもちろんわかっているけど」
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