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すぐ読める官能小説集
第1章 『視線』
そのあっちゃいけない想像で興奮してる私。

あの視線の声が聞こえてくる。
『なんだ。揉まれたかったのか?』
あの視線が、私の耳元に低い声で囁く。
私は俯きながら、首を横に振った。
『ウソつけよ。感じてるんだろ?』
またあの視線が、私の耳元に囁く。

『感じてなんかない』
また首を横に振った。
どんなに首を横に振っても、あの視線は納得するわけないことを知ってる。
でも首を横に振るしかない。

だってこんなところで……。
『わかってるぜ。満員電車の中とはいえ、人がこんなたくさんいる中でイヤらしい気持ちになってるなって知られたくないよな?』

『もちろん。知られたくない』
だからやめて欲しい。

その一言が言えないで、されるままの私。
まるで何もされてないみたいに、俯いてやり過ごそうとしている。

でもあの視線は許してくれない。
「なあ。知られたくないだろうけど、声出してみろよ。感じてる声をさあ」
そう言われて、私は顔を上げた。
右斜め横に立ってる女の人の顔を見た。
助けを求めるように……。

でもその女の人は、私が視線を送ると避けるように顔を逸らした。
『あああ……。わかってるんだ。私が痴漢されてること……』
そう思うと、より一層、感じてる声を漏らしてしまいそう。

『残念だな。あの女、わかってるのに、助けてくれなさそうだ』
追い討ちをかけるように、あの視線が最後の一押しをした。

防波堤は、カンタンに崩れた。
「あああ……イク……」
左斜め横に立ってた男の人が、チラッと私を見た。
『オマエが声を上げた瞬間、あの男。オマエの方に顔を向けたぞ』
わかってる事実を告げられるのは恥ずかしい。
私は左斜め横に立ってる男の人をもう一度見た。

もう何事もなかったみたいに、真正面を向いて立ってる。
その姿を見て、より羞恥心が高まった。

『もうそろそろ、オマエが降りる駅に着きそうだ。今日はコレで終わりだ。いい声音だったぞ』
あの視線はそう言って手を引っ込めた。

「お……おっぱいだけで……イっちゃった」
天井を見つめながら、自分が変態だってことを自覚する。
イヤなはずのあの視線のことを妄想して、イっちゃった自分。
嫌悪感とイった快感で頭がクラクラした。

(終)
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