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密会
第13章 🌹あとがき🌹
【18】「俺は喉から手が出る程、お前との子供が欲しかった。」
獣の呻くような、苦しげな日比谷教頭の声が頭上から降ってきて、美月は思わず大きく目を見開いた。
そこには精神的な苦痛に苛まれているかの如く、クシャクシャに顔を歪めながら、酷く濁った目で美月だけを見つめている彼がいた。
「欲しかった」と過去形なので、やはり叶わない願いでしかない事を頭の片隅で理解している悲痛な言葉になります。
彼は「お前を(狂おしい程)愛している。」とは絶対に言えませんでした。何故なら言っても虚しさしか残らないからです。だから彼女に言葉を強要する事もしませんでした。
この言葉は、彼の精一杯の「愛している。」だったかもしれません。
美月の言葉を信じられない虚しさ、嫉妬によって膨らみ上がった猜疑心、ある筈のない美月から自分への愛の証明。
その全てを凌駕し、一切満たされる事が無く暴走を続ける独占欲と執着。
こういった沢山の負の感情を抱えながら、彼は、美月が気絶するまで強姦という自分が最も軽蔑していたセックスを続けます。
そして、暴走していた独占欲と執着が落ち着いた頃には、愛おしい彼女は死んだように動かなくなっています。
「ああ、俺は取り返しのつかない事をした。」
そう思いながら、彼女の身体を清め、退職願を書き、すっかり冴え切った頭で今度は彼女の望まない妊娠を防ぐ為に情報を集め、罪悪感と自責の念に駆られながら、彼女の目覚めを待つ...という流れになっていました。
翌日、彼が美月と何となく距離を取ったのも、自分に抱きついてきた彼女を抱きしめ返さなかったのも、自分はもう彼女を愛する資格は無いと思っていたからです。
美月が引き出しを開けなければ、彼は何も言わずに彼女の前から姿を消すつもりでした。
指輪も無論、捨てる予定だったんです。
でも美月が引き出しを開けた事で、彼女の運命だけではなく、彼の運命もまたひっくり返ってしまった、そんなストーリーを描いたつもりでした。
慈愛のこもった眼差しは、正確には8、10月の2回でしたが、それはあくまで美月からの視点です。
本当はもっと沢山の機会、黎一は美月に慈愛のこもった眼差しを注いでいた、という意味合いが強いです。
繰り返しになりますが、目は心の鏡であるという事が最後伝われば嬉しいなぁと思います。