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千年の恋
第3章 救いの手
=雅紀=

結局その日の仕事は予定より長引き、スミレのマンションに着いたときには午後7時を過ぎていた。

合鍵でドアを開けると、昼間の暑気をためこんで強い熱気が立ち込めるリビングで、黎佳が床を這うような格好で倒れている。くそ、遅かった。私は駆け寄った。

「黎佳ちゃん?」

駆け寄って頬に手を当てると案の定熱がある。

羽月と私はあらゆるものを使って黎佳の体を冷やしながら車で病院へむかった。


水分を取らせるために近くの自動販売機でスポーツドリンクを手に入れたものの、黎佳は自分で飲む体力が残っていなかった。私は口移しで彼女に飲ませることを思い立った。

液体を流し込むために慎重に唇を重ねる。皮膚を触れ合わせ、密着させ、舌を使って液体を流し入れた。その時、私は奇妙な感覚にとらわれた。

私は彼女と、遠い昔にキスをしたことがある、そう思ったのだった。

この感触を肌が覚えている。でも、そんなことはあり得ない。彼女はまだ7歳なのだ。



縫い留められるように、黎佳の唇から目が離せない。

黎佳は目を見開き、たった今目覚めたかのような顔で言った。

「もう一回、して?」

キスして欲しい、とねだられている気がした。そんなはずはないのに。

私は慌ててもう一度、ドリンクを彼女の口に注ぎ込んでやった。



繰り返すうち、不思議な儀式を取り行っているような錯覚を覚えた。

少女を無理やり成熟させる秘薬か何かを彼女に注ぎ込むような淫靡な呪術にも思え、人知れない甘やかな背徳感を覚えながら私は胸を微かに震わせていた。
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